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    「それは勝手だが、あんなもの、温泉と思っちゃいかん」

    「や、皆さんどうも遅くなりまして――」

    「先生お帰りになりましたかね」

    「いや、そのうち又ゆつくり話さう」

    「ほう。元気だね。ハッパでやられたかね」

    「へえ。――わし達は小倉組の者ですが、ちよつと怪我人ができましたよつて、せんせいに御面倒かけに上つたんですが」

    「あゝ、よからう。大賛成ですよ」

    「脚気の方は?」

    徳次も笑顔になつていた。だが、それは甚だ不器用なもので、絶えず紅らんだり力んだりしながら、眩しげに房一を見たかと思ふと、又当惑したやうな顔になるのであつた。

    時々、澄んだ甘い柔味のある、痩せたすんなりした身体つきを想像させるやうな盛子の声が、はじめは稍張りのある調子で起つて、途中で何かしらはにかんだやうに細く聞えがたくなり、又時々ピツと語尾が跳ね上るやうになつて響いて来た。それは身体の動きとは別に、声そのものが絶えずどこかに柔かくくつついたり離れたり、又そこらを歩きまはつたりしているやうであつた。

    「さうですか。それは――」

    「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」

    富田は庄谷の方に向きなほつた。

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