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「や、ありがたう」
「なに、切れてるつて?」
彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。
「わしは反対だ!」
「ほう、いつから」
と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。
私は朝と夕方と真夜中に入浴する。朝、ぬるいうちに私がはいり、そのあと熱くして家族がはいる。それをほッとくと、夕方、私には手頃のぬるさとなっている。
「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」
「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」
「はあ、それは――」
家督を継いだ文太郎が間もなく酒造業をやめた時に、直造は少からず不満だつた。文太郎は種々の理由から説得した。が、最大の理由は法学士だつた文太郎が帳付よりも地方政治に興味を持つていたことにあるらしい。果して、文太郎の濫費のために一時は不動産の大半が銀行担保に入つたことがある。直造は不機嫌だつた。しかし、欧洲大戦が始つて以来の好景気が鍵屋の財政を持ち直しはじめていた。
「さうか、惜しかつたな」