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そのとき、女房に命じて、温泉を加熱する装置を施してもいいか、ときかせると、
彼は年に似合はず厚く生えた白髪まじりの頭を短か目に刈り上げ、多少猫背になりながら袴の両脇から手を差しこみ、心持肱を張つて坐つていた。それは何々翁肖像といふ掛軸を思はせるやうな古風な律義さと端正さを現はしていた。
道平はそのまゝ夕食を招よばれて、ゆつくり腰を落ちつけていたが、夜ふけ近い頃になつて、ひよつこり
「別に惜しいほどのことではありませんよ」つづけて、ふいに調子を変へると、
ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。
「さうぢや」
「あなたの追鮎は元気らしいなあ」
房一は又重たげな恰好で坂路を登つて行つた。下を見ると、心持阿弥陀あみだに被つた練吉のソフト帽が、もう小さく桑畑の間を走つているところだつた。彼は、練吉の気弱さうでもあり、又疳かんの強さうにも見える眉のあたりの色を、今ごろになつて急にはつきり思ひ出した。
「なにぶん山の中でございますから、折々にこんなことがございます。」
「へえ、どういふわけでせう」
「いやあ、全く」
練吉はまだ眼鏡を手にしたまゝ、不自然に大きく見える眼を極端にぱちぱちさせ、ぢつと房一の顔をのぞきこんでいた。彼は今さつき、突然の房一の来訪でよび起されたのである。